オーストラリアの弁護士のいろいろ その8 刑務所で面会

刑法は法学部で一番と言っても良いくらい人気科目です。

オーストラリアの法律は法令よりも判例重視のため、講義で過去の重大事件から現在の判例を勉強します。つまり過去の刑事事件を振り返ってどんな刑法が適用されたか勉強する訳ですが、殺人事件の判例はその詳細が凍りつくような恐ろしい内容ばかりです。でも興味津々。

人気科目であっても、刑事弁護士になるのは相当な覚悟が必要です。どういうことかと言うと、刑事事件は検察がいて、被告側弁護を刑事弁護士が担当する、つまり、悪事を起こした、またはその罪に問われた人物がクライアントになる訳ですから、そのようなクライアントとやり取りができる覚悟が必要なのと、あと弁護士費用があまり当てにできない場合が多いかもしれないこと。また被告側に立つため、世間からの批判もあり得るかもしれない。こう言うことを考えると、法学部卒業後、刑事弁護士の道を選ぶ学生はあまりいないのが現実です。

殺人犯との面会-刑務所訪問

ここからはクライアントではないケースのお話。

弁護士になってしばらくして、勤めていた事務所に、ブリスベンの女性刑務所に収監されている殺人で有罪判決を受けた女性から弁護士と面会したいとの電話があった。新人弁護士の私が経験のため行ってこいと言うことで、ブリスベン郊外にある女性刑務所へ行くことになりました。もちろん刑務所なんて初めてで、しかも一人で。

まずは、入口で申請をして中へ。持物検査とX線検査を受けて、よくTVで見る、ガラス越しの面会をイメージして来たのに、通されたのはテーブルと椅子がいくつか置いてあるリクリレーションルームのような大部屋!

この奥にガラス越しの面会室があるのかと思いきや、じゃあここで待っててといって収監員が殺人犯を連れて来て、「ここで面会して、必要な際はブザーを押してね」と言って出て行った。

こんな大部屋にしかも私と殺人犯の二人きり!!!!!彼女が実際殺人を犯したかは別として判決で罪が下されている罪人(冷汗)。

職員は私の目の見えるところにいないし、殺人犯は手錠も外されてテーブル越しに座っている。飛びかかられても、職員が直ぐに助けてくれる状況ではない!

こんな緊迫状態の中、二人きりでまともな話ができる訳が無い。でも殺人犯は色々話をして来た、事件の話ではなく、自分の家族のこと。ただ相手をして欲しかっただけのようでした。

私の目は、何かあったら直ぐ飛びだせる状態で構えていて、扉の方向ばかりが気になる。相手を逆立てるような話もできないし、相手の話を聞いて約20分くらいで終わった。

ブザーを押して職員が迎えに来てくれて、無事刑務所を後にする。

あー怖かった、もう2度と経験したくない、でも良い経験になった。

これきりで刑法は私には絶対無理!と自覚したのでした。

つづく